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イーハトーヴ山人の歌による交響曲 [音楽ネタ]

冨田勲のイーハトーヴ交響曲にはまっている。いや、はまっているどころじゃなく聴きながら何度も号泣した。震災以降東北をテーマにした音楽がいくつか出たけどその中ではイーハトーヴ交響曲が文句なしの最高傑作と言えるだろう。世間的には初音ミクとの共演が話題になっているようで、そういう観点から聴くのも(肯定的にも否定的にも)面白いのだが、そういう話しはよその誰かがなんぼでも論じているだろうから別の観点からこの作品について書いてみたい。「ミクを使わなくとも作品が成り立つのではないか?」という見方もあるようだが、作曲者の冨田勲はどうしてもミクのパートを人間の声にやらせたくなかったということらしい。ミクを夭折した宮沢賢治の妹トシに重ね、異界からの使者=トシとして登場させたという訳だ。それを色物と取るかどうかは個人の好みの問題である。

この作品には元曲がある。ヴァンサン・ダンディの代表作「フランス山人の歌による交響曲」である。おそらく宮沢賢治作曲の「種山ヶ原の夜より牧歌」と「フランス山人」第一楽章冒頭の旋律の親近性から着想を得て作品に引用したと推測される。ちなみに「フランス山人」の方の主要旋律はフランス南部の山岳地帯セヴェンヌ地方の民謡に基づいている。それが日本の旋律にもマッチするから面白い。冨田勲が引用した部分をちょっと書き出してみる。

イーハトーヴ交響曲:1.および7.岩手山の大鷲<種山ヶ原の牧歌>→「フランス山人」第一楽章冒頭
イーハトーヴ交響曲:2.剣舞/星めぐりの歌→「フランス山人」第三楽章の主要主題
イーハトーヴ交響曲:3.注文の多い料理店→「フランス山人」第二楽章の第二主題

細かく調べたらもっと出て来るかも。特に面白いのは「注文の多い料理店」のミクのソロパート。ここは「フランス山人」第二楽章の旋律を使っているのだが、途中で冨田勲のお遊びからかアラビア調に変化している。セヴェンヌ地方って地中海に近い場所にあるからもしかしてアラビアの影響も受けてるのかしら?原曲でもこの旋律だけ前後から浮いてる感じなんだよね。「岩手山の大鷲」「剣舞/星めぐりの歌」での引用および対比は見事としか言い様がない。ぶっちゃけ原曲より面白い曲になっちゃってる。「フランス山人」は立派な曲だと思うけど、せっかく登場させた主題をヘンテコに展開させたり余計なオカズを入れたりするせいでいささか散漫な印象にも感じられてしまう。せっかくの美しい旋律をもっと朗々と続けて欲しいのに中断しちゃうんだもん。旋律の聴き所や泣き所をはっきりさせたことでイーハトーヴが原曲を超えちゃったって言ったら怒られる?

実はダンディにはそれなりに思い入れがある。母校の吹奏楽部が昔コンクールの自由曲にダンディの交響詩「山の夏の日」取り上げたからだ。(私はその後の世代だが)全部で三つの楽章からなり、山の夜明けから日没までの情景が美しく描かれている。確かダンディって気難しい感じの人で、同じく自然の一日を描いたドビュッシーの「海」を聴いて「形式がない」とかケチをつけてたはず。スコラ・カントルムの厳格な校長先生も、生徒達に古楽の研究を推奨しつつ新しい音楽には嫉妬してたんだろうな。もしダンディが現代に生き返ってイーハトーヴを聴いたらどういう感想を持つんだろうね。

あたしはヴァンサンダンディ かりそめのボディ 妖しく聴こえるのは 私が書いたメロディ ・・・

イーハトーヴ交響曲は8月花巻で再演されるらしい。花巻だけとは言わず東北各地で演奏されて欲しい。






コメント(2) 
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コメント 2

Shino

初めまして。
私はダンディを全く知らなくて、ラフマニノフの方に目が向いて第二番をCDを買って聴きました。ラフマニノフ第二番は冨田さんほどでもないなあと思いました。
ダンディは今日、ほとんど演奏されないとかの情報をどこかで見てどうしようかと思いましたが、YOUTUBE検索をかけてびっくりしてしまいました。予想以上にある。そして「フランスの~」を聴いてみてさらに魂消てしまいました。
これはイッタイ^^;

「山の夏の日」の開始はシンセサイザーみたい。
冨田さんはダンディのひ孫弟子だそうですが、ダンディが今に生きていたらモーグを買っただろうと思いました。

セヴェンヌ地方の民謡を聴いてみたいです。
ダンディはメロディーをいただいて、冨田さんは新しい歌詞を与えた。
NHKには冨田さんをセヴェンヌへ行かせてドキュメンタリーを制作してもらいたいです。
by Shino (2013-03-19 14:04) 

manzo

Shinoさん初めまして。ブログ拝見させていただきました。記事にも書きましたが私がダンディを知るきっかけになった曲は山夏です。似たようなタイトルでボザの「夏山の一日」というフルートアンサンブルの曲がありますが、良く山夏と間違えられるようですw 高校の自由曲が山夏だったものでしたからフランス山人を聴くまではダンディ=山夏でした。最終楽章のホルンソロから日没を示す保続音が第一楽章の夜明けと対になっていて面白美しい曲ですね。イーハトーヴを聴くとどうしても泣いちゃうんで最近では聴くのを控え、もっぱらフランス山人の方を聴いてます。
by manzo (2013-03-19 21:16) 

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