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北杜夫さん逝く [世の事象にもの申す]

作家の北杜夫さんが亡くなって悲嘆にくれている。思春期のころそれほど読書しなかった私も北さんの作品だけは親から借りて読み、夜半ひとりして大笑いしてた。私の人格形成に大きな影響を与えている作家を一人選べと言われたら北さんしかいない。訃報を知り、北さんの書いたものを読み直そうと自室をあさるも、一冊残らず紛失していた。関東からUターンした折りに全てブックオフにて処分してしまったようである。当時の私にとって文芸作品はそれほどウエイトをおかないものだったらしい。段ボールの中に残っている書籍は音楽書とアップルについて書かれた書物だけだった。

2ちゃんねるにいくつか関連スレッドが立っていたのでおそるおそる覗いてみた。行儀の悪いねらーどもに私の偶像を汚されるのには堪え難いものがあり、いざという時はケンカのひとつでもしてやろうと鬱勃たるパトスを持って読んでみたが、ほとんどのレスが真摯に北さんへの哀悼を示したもので、安心すると同時に、私と同時代を生き同じ感慨を抱いている人たちが大勢いることに嬉しくも思った。

いつまでも2ちゃんにへばりついてもいられない。紛失した書物を回収し、わが思い出を回復するのが至上命題である。とりわけ「どくとるマンボウ青春記」には深い思い入れがあったので、なんとしても見つけてやろうと息巻いていたが、一件目に入ったブックオフであっさり見つけ「これは俺様のもの」と心中つぶやきながらとっとと回収。300円という価格は嬉しいのやら悲しいのやら。いっそ棚にある北作品を全部大人買いしてやろうかなどとも思案したが、なんとなく同じことを考えている他の北ファンに悪い気がしたので、比較的残数がある「どくとるマンボウ航海記」と「マンボウ人間博物館」のみ併せて購入した。

北作品は成人してからはあまり読まなくなった。最後に買ったのは「どくとるマンボウ医局記」。16年前の作品である。それ以降は北さんの動勢については全く疎く、たまーに新刊が書店に置かれているのを見てもスルーしていた。こう書くとまるで冷血漢のようだが、年齢年齢で興味関心が変遷するのはアタリマエなので、仕方ないことだった。ただ、気になってはいた。「どくとるマンボウ青春記」を北さんが書いたのは私が生まれた歳。そして北さんが今の私と(おおむね)同じ年齢の時に書かれた作品。つまり私の倍の人生を送られてきた訳で、その期間の埋め合わせをしなければ失礼なんじゃないかな?とも考えていたのである。自分もアラフォーとなって、今までの人生を振り返り、今後の指針にしたいという思いもあった。何せ私もこの歳になって、いっちょ前に「軽度のうつ」なぞを煩うようになりましたから。躁鬱と鬱は同じ病気ではないが、はんぶんこだけシンパシーを持ちたいという願いがあった。ということで、近作の「マンボウ最後の大バクチ」もツタヤで購入。現在読み進めているところである。イイトシしておっぱいパブみたいな店にチャレンジし、そこの風俗嬢につい恋心まで抱いてしまう逸話は実に北さんらしい。

最近、親父から「これを読め。」と一冊の学術書っぽい本を渡された。なんでもウチの祖先の藩政改革の業績について書かれた本とのこと。愚かな私の先祖もそれなりの人であったことを初めて知った。しかし今の当方一つの人生を反芻するのに精一杯。北さんへの思い出を自分の生き方と繋げたあと、この宿題(祖先の生き方と自分の生き方を照らし合わせる)に取り組もうと思う。




コメント(2) 
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コメント 2

takebow

小生も読んだよ、「どくとるマンボウ」シリーズ。当時、遠藤周作狐狸庵先生と並んで人気だったです。他にも「船乗りクプクプの冒険」や「怪盗ジバコ」など大好きだったのに、まじめな「夜と霧の隅で」や「楡家の人々」はまだ未読です。この期に先生を偲んで、読もうかなと思っています。
by takebow (2011-10-29 22:28) 

manzo

師匠どうも。ツイッターでもつぶやいたんですがこの際全作品電子書籍化して欲しいなと思っております。新潮文庫さんも復刊まではしてくれるとは思いますが、追悼商法に留まりそうな気がしてなりません。楡家は長いですからね。あとの楽しみにとっておこうかと。
by manzo (2011-10-29 22:59) 

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